はじめに
この記事は
- これから航海士や機関士を目指す方
- ご家族に船乗りの方がいる方
などに向けて船ではどんな人が働いているのかを解説します。
この記事は現役の船乗りである私が経験に基づいて書いています。基本的なことに加えて実際に船で働くうえで必要な知識も含めて解説していきます。
船の最高責任者”船長”
どんな船にも必ず船長がいます。船長には航海士が経験を積むことによって上級免状を取得しなることができます。
ところが船長は甲板部の統括だけではなく船全体の統括をしなければなりません。
英語では”Captain”や”Master”と呼ばれています。キャプテンは馴染み深い呼ばれ方ですがマスターともよく呼ぶことも多いです。
船長の義務と権利
船長には多くの義務がありそれと同時に権利があります。
一般的になんとなく船長はいろいろな権限があるというイメージですが、実際には船員法という法律で定められています。
このような法令に基づき船の安全を守りその義務を果たさなければなりません。
船員法第二章
船員法第二章では「船長に職務及び権限」について定められています。
例えば第十一条には
船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべきものにその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない。(在船義務)
船員法第十一条
と規定されています。
つまり、船長は着任からよほどのことがない限り船を離れてはいけないのです。
以前乗っていた船では乗船期間中一日も休んでいませんでした。
船長が統括する3つの部署
船長は
- 甲板部(デッキ)
- 機関部(エンジン)
- 事務部
三つの部署を統括しています。それぞれの構成している人員数などには航行している海域や船の大きさによって異なりますが今回は外航船の場合についてそれぞれ詳しく解説します。
甲板部
甲板部を統括しているのは一等航海士です。英語ではChief officerといい、略して「チョッサー」といいます。船によっては次席一等航海士も乗船していることがあります。その場合は次席一等航海士のことを1st officer「ファーストオフィサー」といいます。
そして、チョッサーに加えて二等航海士(2nd officer)、三等航海士(3rd officer)が職員として船舶の運航や荷役を行っていきます。職員は海技免状を取得し船の安全に対する責任があります。
その職員を補佐していくための部員(クルー)がいます。
甲板部員の中のリーダーのことをBoat Swain:ボースンといい、その下にAble Seaman(AB):エービー、Ordinary Seaman(OS):オーエスがいます。
基本的にエービーは航海当直に入り、見張りや操舵の補佐を行います。また、操舵してくれるAble SeamanのことをQuarter Master :クオータマスターといいます。
オーエスはボースンのもとで働き、経験を積んだらエービーになります。私も学生の頃は、これらの区別がつかず混乱していました。
ちなみにクルーたちはチョッサーの直属の部下なので、三等航海士が許可なく指示したり仕事を任せると怒られます。必ずチョッサーの確認をとらなければなりません。
機関部
機関部には機関長(Chief Enginer:チーフエンジニア)をはじめに一等機関士、二等機関士、三等機関士の職員がいます。
職員を補佐する機関部員の筆頭に操機長:No1 Oiler通称「ナンバン」がおり、その下に 操機手:Oilerと操機員:Wiperがいます。
機関部は機関長が機関部全体を統括しており、職員がそれぞれ担当機器を持っています。機器の担当配分は会社や船によって異なりますが、主要な機械に主機、発電機、冷凍冷蔵庫、燃料関係、空調設備等、多岐にわたります。
事務部
最近の商船ではほぼ事務員は乗っていません。
ただし、フェリーや客船などでは旅客への対応のために事務員が乗り組んでいます。
事務部には事務員のほかに、食事を作ってくれる司厨長たちがいます。
司厨長はchief cook といいその下に2nd cookがいます。chief cookは乗組員のために毎日の献立を考えてくれたり、食材の管理などもしています。昔はフィリピン人コックの料理の評判はあまりよくありませんでしたが、最近は彼らも腕を上げなかなかおいしい日本食を作ってくれます。
さらに外航船では食事の準備をしてくれたり、ごみ捨てや部屋の掃除をしてくれるmessmanがっています。こうして、陰ながら船員たちの生活を支えてくれています。
通信部
かつては通信部がありました。
しかし、現在は通信機器が発達したこともあり、航海士が兼任しています。
練習船ではまだまだ現役の通信長と通信士がいて、通信機器の取り扱いについて詳しく教えてくれます。
まとめ
以上で船内組織についての解説を終わります。
船の安全運航に欠いていい人は一人としていません。船の安全運航を考える上で乗組員全員の協力はとても重要です。
読んでくださった方が少しでも船の世界について知っていただけたなら幸いです。
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